海外経験豊富な
老舗ファッション資材メーカーとつくるアジアの未来。

(左)小林慎吾

コバオリ株式会社 代表取締役社長。
2004年、1947年創業の京都の老舗、コバオリ株式会社の3代目社長に就任。2001年に中国・青島に袋パッケージの工場を合弁で設立したのを皮切りに、2013年にタイ・バンコク、2015年にベトナム・ホーチミンに進出するなど、海外展開を積極的に推進。2021年3月、バイオマスレジンホールディングスと、ベトナムでの製造事業などで資本業務提携を発表。
2022年6月に「ライスレジン®︎」に加え、お米由来の生分解性プラスチック「ネオリザ®︎」の生産をスタート。

(右)神谷雄仁

バイオマスレジンホールディングス 代表取締役CEO。
商業施設開発のコンサルタント、食品商社で化粧品・健康食品原料の開発などを経てバイオマス関連事業に参加し、2007年、前身となるバイオマステクノロジー社創業。2017年11月、バイオマスレジン南魚沼を設立。2020年3月、バイオマスレジンホールディングスを設立し、代表取締役CEOとして現在に至る。

プラスチックの袋パッケージがいつの間にか悪者に

−コバオリの歴史から教えていただけますか?

(小林)社名を「コバオリ」に変更したのが6年前、それまでは「小林織ネーム」という名前でした。私の祖父が創業した会社です。織ネームというのは、洋服の襟首の内側についているブランド表示、小さな織物です。そちらを中心に、他にも洗濯表示、紙製のタグ、ワッペンなど、ファッション業界向けの資材の企画、製造、販売を行ってきました。あとは、袋や箱などのパッケージですね。主にブランドさんのためにつくります。ただ、クライアントも変わってきて、かつてはテーラーさんとか洋装店さん、そういうところがメインでお仕事をさせていただいてきたんですけど、高度成長期に既製服業界がどんどん伸びていくなかで、いわゆるアパレルメーカーさんにシフトしていきました。

−そのことで何か変化はありましたか?

(小林)ブランドの価値が高まってくるというか、そういう動きがありました。それによって、ブランド表示に注目が集まり、われわれの商品も見て、認めていただける時代になったかなあ、と。近年は、特に小売業が強くなってきて、われわれのお客さまもシフトしてきています。それに伴い、求められることも変わってきています。たとえば、小売業さんがRFIDやICタグを使われることが増えてきているので、そういう新しい技術を取り込みながら、お客様のブランドの価値を守り、高めるといったことをテーマにしています。

−バイオマスレジンとの出会いについて教えてください。

(小林)製品の種類を広げていくなかで、プラスチック製の袋パッケージが増えてきました。袋パッケージは特殊な業界で、しかも洋服では必須ではなかったので、あまりやっていなかったんですよ。ただ、お客様の製造拠点が海外にシフトしていくなかで、袋パッケージをはじめ、他の資材も現地供給がいいということになり、我々も海外投資を進めました。そして、2001年から中国・青島で袋パッケージの工場をジョイントベンチャーで始めました。袋パッケージは、店頭に陳列する際にもスリムで合理的だし、タグだけに頼らずブランドのイメージを伝えられる、という意味で、たくさん使っていただき、事業は順調に進んでいました。ところが、時代的に……

−環境問題ですか。

(小林)そうです。時代がサステナブルになってきて、環境に配慮した製品開発が必要だ、というテーマはずっと持ってはいました。でも、正直なところ、袋パッケージの事業が順調だったので、お客様の利便性のためにもさらに海外に展開していこう、ということになり、2015年にベトナムにも製造工場をつくりました。ただ、世の中の動きは非常に早いので、サステナブルというトレンドが一気に顕在化してきて、われわれが大量に供給させていただいていたプラスチック製の袋パッケージがもう必要とされない、時代の使命を終えたみたいな扱いになってしまいました。じゃあ、投資した工場をどうしよう、どうやって経営改善しよう、と考えていたときに、神谷さんとの出会いがありました。

将来のビジョンに共感

−最初、どのような印象を持たれたんですか?

(小林)「ライスレジン®︎」のお話もお聞かせいただいて、新しい技術ですし、最初はいろいろと思い悩むところもありました。しかし、お話を聞くなかで、神谷さんが語る将来に向けてのビジョン、ロードマップに共感できたんです。そして、われわれにとっても必要で大事なことだけど、バイオマスレジンさんにとっても、われわれが一緒というのはプラスになるし、必要なピースになるはずだという思いを持って、「一緒にやらせていただきたい」と申し入れました。

(神谷)ありがたいですよね。

−何年前くらいのことですか?

(小林)2019年の後半ですかね。最初にそういう話になったのは。ほんとうにあっというまに時間が経ってしまって。ついこの間みたいな気がするんですけど(笑)

(神谷)小林社長は決断が早かったですね。今おっしゃったように、新しい技術だし、わからないことがいっぱいあるなかでも、「躊躇されたことあるのかな」と思うくらい、意思決定が早かった。京都の老舗の企業さんが、われわれのようなベンチャーと一緒にやっていただけるのかな、と最初は思っていたんですね。でも、お話しするたびに、やっぱり理解していただけるスピードも早いし、的確だし、判断が早くて。

(小林)ぐいぐい巻き込まれたみたいな感じ(笑)

(神谷)それも否定はしませんけど(笑)

(小林)プラスチックうんぬんということもあるんですけど、一方で、お米の問題に思うところもありました。私はトレランが好きなんですけど、走っていると郊外の耕作放棄地なんかも気になります。そうした農業問題や、さらに食料安保にまで広げられて貢献できるかもしれない。いろんな問題がこれからも出てくると思うんですけど、完璧な技術なんてないし、今やれることは今やって、次の時代につないでいく。完璧を求めていたら、いつまで経ってもスタート切れないですしね。

(神谷)勇気をいただいていますよね。僕が一緒にやりたくなる理由がわかるでしょう(笑)

−余計、使命感が高まりますよね。

(神谷)純粋に、理解していただけるのって嬉しいですよね。長く理解してもらえない環境のなかで仕事をしていましたから。社会環境が変わったこともありますけど、それ以上に、経営者として先輩で、いろんなことをすでにやっておられて、その上で僕がやろうとしていることに助言を下さったり、僕自身に考えるヒントをいただけたりする。合弁でやりましょう、ということ以外に、人間力というか、その関係がね、僕自身にはありがたいかなあと思っています。昨年も展示会「サステナブル・マテリアル展」に2度共同出展させていただいていますけど、やっぱりそうだよね、よかったよね、と思えることがどんどん重なってきていて。社長が先ほどおっしゃったように、コバオリさんと一緒にやることで、バイオマスレジングループにメリットを与えてくださる、本当にそう感じています。

(小林)最初は、ベンチャーっていったら儲かるのかなあ、みたいなね(笑)。そんなところから入って、でも、実際には技術開発とか、大変な苦労をされているんだろうなあ、と。

製造と研究の両輪

−思い出に残るエピソードとか、これは苦労したなあとか、小林社長いかがですか?

(小林)神谷さんを見ていて、この人なら間違いないと思うし、世の中をなんとかしようという使命感から始まっていることだと思っています。だから信じていますが、あえて言わせてもらうと、これからすごく苦しいタイミングとかあると思うんですけど、そういう時も嘘やごまかしはなしですよ、と。一緒にお取り組みするのは、ベトナムでの生産ということになりますけど、日本の技術を全面に打ち出し、日本のイメージでPRを行い、アジアでの展開を進めるなかで、われわれは黒子として仕事をする、ということは理解しています。だからこそ、状況が変わっていくなか、大成功をおさめるかもしれないですけど、どんなときも志に立ち返ってやっていきましょう、それを約束してください、とお話ししたことがあります。

−今日は、そういうのを忘れないための対談でもありますから。

(神谷)そうですね。小林社長からそういうお話をうかがうこともあって、その時もちゃんとお答えしているんですけど、われわれは製造業なんです。堅実にものをつくって、供給し続けていく責任ってすごく重い。目先の収益うんぬんというよりも、日本の素材産業として新しい挑戦をしていて、大手メーカーと同じ土俵で見てもらえるようになるには、やっぱり地道な成長というのは絶対に必要です。それを前提として進めている事業なんで、地に足をつけて、しっかりとした組織づくりをして、ちゃんと供給できる体制をつくろう、と考えています。一方で、この事業の技術や魅力的な部分もしっかりと伸ばしていかないといけない。

異業種のタッグによる相乗効果

−お互いの会社というよりも経営者としての魅力についてお聞かせ願えますか? 神谷さん、どうですか?

(神谷)僕はね、最初にすごいなあと思ったのは、さっきお話に出たけど、2001年から中国で合弁事業をされているんですね。20年以上前から中国企業と合弁を興して、きわめて順風満帆に成長産業として拡大している。多くの日本企業が中国に進出していますけど、僕の知る限り、そんなにうまくいっているところはなくて。小林社長のところは、中国側とずっといいパートナーシップを持ち続けて、今日までやっているんですね。こういうことができる会社だから、われわれも安心して一緒に海外展開ができると思って。日本の会社って、アジアに進出すると、俺たちの言うことを聞いてやれ、みたいなのが、特にものづくりは多いじゃないですか。そういうところがぜんぜん違う。その期間、中国のものづくりのレベルがすごく成長しているのを肌で感じますが、社長のところはそういう伸びる中国企業と一緒にやって、強固な信頼関係を築いている。われわれもそうなりたいと思っていて、いろいろ教えていただきたいなあ、と。

(小林)さっきもお話ししましたけど、神谷さんは、使命感といえるような、今の社会の問題を解決する、そういう技術に取り組まれている。そこが出発点というのは、すごく大事なこと。事業として成功させないといけない、収益性を確立しないといけないというのは、企業として当然ですけど、その出発点にそういう問題意識があるっていうのが、共感できるところですね。それを追求していけば、世の中も応えてくれるというか、実際にわれわれもそこで一緒に仕事をさせていただけたら、この社会に貢献できるはずだし、事業として成り立っていくんだろうなあ、っていうふうに感じています。

−2社の相乗効果というのは、もう出ていますよね。

(神谷)一つはね、僕ら単独では海外での展開をできないけど、ご一緒できるからベトナムで新しいビジネスができる、これはもう直接的なメリットですよね。もう一つ、間接的には、昨年の展示会のように、アパレルの経験とノウハウを活かして、うちの素材を使ったものづくりについて、具体的なアウトプットが出てくるじゃないですか。今まで僕らがプラスチック加工屋としてやってきたものづくりと、ファッション業界の人たちがうちの素材をどう活かそうか考えてくれる提案はぜんぜん質が違うなあ、と思っていて。実際に展示を見てもわかりますよね。本当に一緒にやれてよかったなあ、って思うし、ブースに多くの方に来ていただけたのも、そういうところが伝わったんだと思うんですよね。

−非常に可能性を感じる展示ですよね。

(小林)新しい技術ですから。われわれにとっても、業界全体にとっても。ファッションは長い歴史がありますが、日本の旧来の産業には閉塞感もあります。イノベーションといっても簡単じゃないし、そんななかでわれわれはサステナブルな新しい技術に取り組ませてもらっている。これまで長くやってきたから業界内で一定の実績は出させていただいているけど、これからのことには難しさを感じていたなか、そのヒントをいただき、一緒にやっていける、っていう期待ですね。

ライスレジンのその先への展望

−最後に、未来に向けて期待していることやチャレンジしたいことを、小林社長からお願いします。

(小林)われわれの商売は、小売業さん、ブランドさんがお客様ですが、神谷さんたちと一緒にやらせていただくのは樹脂素材の仕事であり、ぜんぜん違いますよね。製造のプロセスの川上にあたり、今の機能を高めていけるような、生分解性や海洋分解性、バイオマス100%など、技術的な期待というのはすごく持っています。コバオリの商売としては、それを広めていく、製品のかたちで売れるようになりたいな、と思っています。そのためにも、まずはこのベトナムでの生産が大切です。

−ベースはやっぱり神谷さんに対する信頼感ですか? 不確定要素が多いなかで。

(小林)そうです。楽観的ですが、次のステージについても考えています。「ライスレジン®︎」の原料として、非可食米で積み上げていくんですけど、その先の食料問題や水問題、次にそういった課題が来たときには、さらなる技術革新をしていかないといけないのではないかと。まずはライスレジンをしっかりとひろめて、さらにその先の進化も期待したいな、と思っています。

−まずは「ライスレジン®︎」が、日本のバイオマスプラスチックといえば「ライスレジン®︎」、といわれるようになるのは大前提で、さらにその上の技術を、ということですね。結構なプレッシャーですね。

(神谷)いや、でもそれは、やりたいことだし、やらなきゃいけないことだと思っています。ベトナムで生産予定の、われわれの生分解性プラスチック「ネオリザ®︎」。アジアを含めて、世界に出していく生分解性の技術だし、「ライスレジン®︎」の派生的な延長線上にあります。さらにいえば、プラスチック事業以外でも、環境に向けて解決すべき課題がいくつかあり、事業化を進めています。ライスレジンの製造業として、また新しい技術の研究開発の拠点として、両方ともきっちりとやらないといけない。今まではなかなかできなかったことが、小林社長をはじめ、われわれと一緒にやってくれようとしてくださる企業さんが入ってくれて、協業を深めることで、もっといろんなことができるし、それが相乗効果だと思っています。そんな風な、いい関係を築いていければいいなあ、と思っています。